追放剣士の再起録
再起の朝
夜明け前の帝都は、剣を収めたあともなお冷たかった。レオンは宿舎の窓辺に立ち、石畳の上で淡くほどける霧を見ていた。昨夜、法廷で名誉は戻った。だが、名を取り戻した朝ほど足元が頼りなく感じるものはない。追放されていた時間が長すぎたのだ。
扉が控えめに叩かれ、アリアが入ってきた。まだ制服の肩に夜の冷たさを残している。続いてミオが温い茶器を抱え、最後にガルドが大きな足音を隠す気もなく入ってきた。四人のあいだに、しばし言葉はなかった。昨日勝ったのは法廷だけで、本当に欲しかったのは勝利ではない。居場所だった。
「評議は予定どおり進むわ」アリアが静かに言う。「でも、中央はまだ油断できない。誰かが最後まで条件をつけるはず」
「条件なんて、砕いてしまえばいいだろ」とガルドが笑い、ミオは小さく肩をすくめた。
レオンは苦く笑った。「砕くのは簡単だ。だが、砕くだけじゃ街は守れない」
その言葉に、アリアの目がわずかにやわらいだ。彼女は一度だけうなずく。「だから今日は、あなたに正式な居場所を返してもらう。剣として、そしてヴェルドの人間として」
御前評議の間は、朝の光に満ちていた。長い卓の向こうで、中央貴族たちはまだ完全には納得していない顔をしている。だが、評議長が読み上げる勅定の一語一語は、もう誰にも覆せなかった。
「レオンへの追放処分を撤回する。帝国剣士としての地位を回復し、辺境要塞ヴェルドにおける防衛再編と補給線再建の任を与える」
ざわめきが走る。誰かが「追放されていた剣を、そのまま現地に戻すのか」と囁いたが、それ以上は続かなかった。証拠も記録も、昨日の断罪で揃っている。今さら不服を唱えても、それはただの悪あがきにすぎない。
「加えて」評議長は続けた。「司令代理アリアには現地統括権を正式に認める。治癒師ミオには医療物資の直接請求権を、傭兵隊長ガルドには前衛指揮権を与える。ヴェルド再建は、個人ではなく一隊として行え」
その瞬間、ミオは小さく息をのんだあと、茶器を抱えた両手を胸の前でぎゅっと握った。
「わたしも、行っていいんですね」と、消えそうな声で言う。
「当然でしょ」とアリアが返し、ガルドは嬉しそうに鼻を鳴らした。
「やっと兵扱いか」
レオンは胸の奥が熱くなるのを感じた。名誉は飾りではない。誰かに見せびらかすためのものでもない。背中を預ける相手の前で、もう一度まっすぐ立てる、そのためのものだ。
勅許の証として差し出された剣を受け取ったとき、金の装飾よりも先に、その重みが手に馴染んだ。かつて追放された日に奪われたものが、ようやく自分のものとして戻ってくる。けれどそれは、終わりの印ではなかった。
「行け、レオン」
評議長の声が、静かに部屋を満たした。「今度は追放ではない。帰任だ」
レオンは膝をついたまま、深く息を吐いた。「承ります。今度は、守るために振ります」
その返事に、評議長は短くうなずいた。剣としてではなく、帝国のひとつの柱として、彼を認める目だった。
評議が終わると、四人はそのまま西門へ向かった。帝都の朝日は高く、石畳の上にまっすぐな影を落としている。門の外には、ヴェルドへ戻るための馬車が待っていた。レオンは荷を確認しながら、都市の喧騒を背に受けた。ここで失ったものは多かった。だが、ここで取り戻したものもまた確かにある。
「帰れるんですね」とミオが言い、すぐに自分で少しだけ顔を赤らめた。
「帰るんじゃない」ガルドが肩を鳴らす。「取り返しに行くんだ」
アリアは馬車の扉に手をかけたまま、短く言った。「ヴェルドは、もうただの辺境じゃない。ここから立て直す」
レオンはうなずいた。あの要塞は、彼を追い出した場所ではなくなった。戦って、迷って、それでも戻ると決めた場所だ。
だが、御門をくぐろうとしたそのとき、馬を飛ばしてきた伝令が一人、泡を食って門前に転がり込んだ。泥にまみれた封書を抱え、息を切らしたまま叫ぶ。
「ヴェルドから緊急報です。西補給路が襲撃されました。魔獣ではありません。人の隊列です。それも、帝国軍の標章を掲げていました」
アリアの顔から、すっと血の気が引いた。レオンは封蝋を見た。封蝋には、見覚えのない蒼い翼章が焼きつけられていた。
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