追放剣士の再起録
追放の真相
査察前夜、記録庫の奥にある小部屋は、湿った石壁の冷えをそのまま閉じ込めていた。焼けた油と古紙の匂いが残るなか、扉の影から現れた男は、カイルと名乗った。レオンがまだ中央の騎士団にいた頃、同じ訓練場で木剣を打ち合った旧友だった。やせた頬には長旅の疲れが刻まれているのに、目だけは逃げていなかった。アリアが視線で促すと、カイルはようやく膝をつき、握りしめていた革袋を床に置いた。
「黙っていた。だから、今さらだ。だが、もう逃げない」
震える声だった。それでも、次の言葉は迷わなかった。
「お前が追放された夜、俺は記録庫にいた。お前が見つけたのは、第三補給路の帳簿だ。兵糧は届いたことになっていたが、実際には半分しかなかった。残りは帝都へ横流しされていた。お前はそれを上に突きつけるつもりだった。だからローヴァンは、お前を軍紀違反の剣士として切り捨てた」
カイルは革袋から、帳簿の写しと、拇印つきの証言書を差し出した。
「追放の裁定は後付けだ。最初から口封じだった。異議を唱えた者は、お前だけじゃない。俺たちも脅された。家族のことまで持ち出された」
アリアの指が、証言書の端を軽く押さえた。紙の薄さに似合わない重みが、その場に落ちた。
「……これを正式な陳述書として残すわ。ローヴァンが否定しても、証拠は消えない」
短く言った彼女の声は、驚くほど静かだった。
胸の奥で、長く刺さっていたものが抜け落ちた気がした。レオンはずっと、自分が弱かったから追放されたのだと思っていた。あの夜、剣を抜いたのが間違いだったのだと、自分を責め続けていた。だが違う。彼は負けたのではない。剣で斬れる相手の外側で、もっと大きく、もっと汚れた戦いに巻き込まれていたのだ。
「……そうか」
こぼれた声は、驚くほど穏やかだった。
「俺は捨てられたんじゃない。見られると困る真実を抱えたまま、戦場から外されたんだ」
言葉にした瞬間、視界が澄んだ。初めて、胸の奥で剣が正しい向きに戻る音がした。追放は敗北ではない。終わりでもない。奪われた場所に戻り、奪った手を断ち切るための、続きの戦いだ。レオンはカイルから証言書を受け取り、剣の柄にそっと触れた。
「なら、今度は仲間と取り返す」
ガルドが口の端を吊り上げる。
「ようやく、殴り返す相手がはっきりしたな」
ミオも小さくうなずいた。怖さは消えていない。それでも、もう誰も下を向いてはいなかった。
夜が白み始めたころ、要塞の鐘が朝を告げて三度鳴った。続いて、正門の方から角笛が鳴る。
「監察官ローヴァン、到着!」
伝令の叫びが回廊を走り抜けた。アリアの瞳が、わずかに細くなった。レオンは窓辺へ歩み寄り、霧の向こうに現れた黒塗りの馬車を見下ろした。車体には帝都の紋章、窓には深い黒の封蝋。扉が開き、白い手袋の男が、まるで客人に挨拶するような穏やかな笑みを浮かべて、ヴェルド要塞の石畳へ足を下ろした。監察官ローヴァンが、ついに来た。
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